紅の涙

 

嗚呼どうあっても君は僕の事を見てくれるつもりは無いんだね。

君は其れを否定するけれど、僕には分かるよ。

だって君は一度も、僕を『見て』くれた事はないんだから――。


「ねぇ、朱華」

何処か眠そうでだるそうな声。
振り返れば、声相応に眠そうでだるそうな瞳が此方を見ている。

「何だ」

「分かってるくせによくそう言うこと言えるよね。性格悪いよ」

朱華はその言葉に別に怒った風でもなく、彼の腰掛けるベッドへと身体を向ける。

「憐香」

「何さ」

名を呼べば、焦らされる事に憤りを感じている憐香は少し不機嫌に答えた。

「何故こんな事をする? もっと自分を大事にし――」

「五月蝿い」

スプリングが軋む。
身体を強く引き寄せられた朱華はバランスを崩し、ベッドに片膝をついた。
眠そうでだるそうで、それでいて強い意志のある憐香の瞳と自然に視線が交差する。

「五月蝿いよ朱華。君は黙って僕を抱けばいい」

怒りとも哀しみともとれない、憐香の瞳の色。
ゆっくりとその不思議な色の瞳が隠され、気付いた時には唇が交差していた。
誘うように舐められ、朱華は唇を開いて舌を誘い込む。
そして憐香の柔らかな濃い鼠色の髪を掴み、自ら口付けを深いものにする。

「っん――」

きつく吸えば、憐香は眉を顰めて小さく呻いた。
長い間そうして舌を絡ませているうちに、主導権が憐香から朱華へと移っていく。
息が苦しい、と涙目で訴えても無視。
肩を掴んで引き離すと、掴まれていた後頭部が少し痛んだらしく、憐香はまた呻いていた。

「誘ったのはそっちだろ?」

そんな強がりな少年に苦笑しつつ朱華は再び喰らいつく。
今度は髪ではなく肩を掴み、そのまま後ろへと押し倒した。
唇を離せば憐香の口元から唾液が伝う。
其れを舐めとり、朱華は囁いた。

「……『アイシテル』」

憐香の瞳が一瞬見開かれて、そして切なげに伏せられた。
朱華からは見えなかったが。

「……思ってないくせに」

「この言葉が欲しいんだろ?」

互いの表情は見えない。
見えなくていい。
朱華は憐香の白い首筋に噛み付いた、食い千切るのかと思う程強く。

「違――っ痛!!」

直前に出た否定は、小さな悲鳴にかき消された。
朱華は知っている、この少年は『このまま食い千切ってくれたらいいのに』と思っていることを。
――それは一種の自殺願望。
だからすぐに力を抜き、自分が噛み付いた箇所を労わるように、丹念に舐める。
痺れに近いくすぐったさに憐香は身を捩るが、上から圧し掛かるように体重をかけられ、押さえ込まれる。
憐香は朱華の漆黒色の髪に指を絡ませ、そのまま力まかせに引き離そうとするが阻まれ、両頬の横、シーツに縫いとめられる。
掴む力が強かったのか、幾本か千切られた漆黒の糸がその上に舞う。
朱華はそんな事には構いもせず、服の上から胸上の果実を舌で突く。
そして両足の間に自分のを割り込ませ、膝で強く敏感な内股を擦り上げる。
途端その拍子に、組み敷いた身体が大きく跳ねた。

「あ――!! はっ……僕が――君に求めてるのはッ!」

ギリ、と押さえつけた手に自身の爪を食い込ませて憐香は叫ぶ。
薄っすらと両眼に溜まった涙で、彼が何処を見ているのかは分からない。

「からだダケ……ァっから!!」

言い切るのと同時に、腰が高く浮く。
膝で強く敏感な箇所を断続的に攻め立てられ、次第にそこに熱が溜まってくる。
涙のせいで焦点の定まらないように見える眼球を舐め、強く押さえつけていた両手を解放すれば、もう抵抗はしてこなかった。

「知ってる。安心しろよ俺もだから」

小さく笑って、そう言った。
もう涙を流さなくなった両眼は、一瞬だけ哀しみの色を浮かべたが、朱華は見なかったフリをした。
そして、張り詰めている前を解放へと導く為に、少年の下肢へと手を伸ばした。


黙って僕を抱けばいい。
愛してるなんて言わないで。
僕の名前を呼ばないで。
黙って、黙って黙って黙って!!
君はどうして。
そうやって僕を勘違いさせては突き放す。
僕の事を労わるくせに、いざ行為に入れば無茶苦茶に僕を荒らす。
嗚呼今日も又――。

「ッぁ……」

ベッドから降りた憐香は内股を伝う冷たくも熱い、滑った感触に戦慄いて蹲った。
震える指をその箇所へと滑らせ付着した液体を掬って目の前に持ってくる。
白い赤いその液体を舐めると、苦くてそして鉄の味がした。
憐香の、良く知った味だった。

「君は許せるんだね」

今はいない、この部屋の住人へと呟く。

「君以外の誰かに僕が抱かれていたとしても」

許せるんだね、と。
その事実に憐香は、無意識的に涙を流していた。


――僕の本当の気持ちなんて、君は知る事もないのだろう。
知られる訳にもいかないけれど……。

 

 

a

ヌルイ、かな。相変わらず堕文だナ。
一応解説っておくと憐香は朱華の兄貴の所有物です。
最初と最後で二人ともキャラ変わってる辺りが未熟い神前。
有難う御座いました。(2005/04/04)

 

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