朝、目が覚めて君が其処に居る幸せ

 


朝、目が覚めて君が其処に居る幸せ。

自分の隣で眠る躰をルークはそっと抱き締めた。
彼なりの一番最後の抵抗なのか、背を向けて眠っている。
ただ疲労の溜まった躰は、ちょっとやそっと触れた程度では覚醒には至らなかった。
態度ばかりが冷たくて、芯がものすごく温かい躰。
同じ造りの筈なのに、自分のそれよりもずっとしっかりして見える。
ルークは相手の背中に額を押し付けた。
じわりと広がる相手の体温が、そのまま心へ広がっていく。

君が居る、という実感。

普段の凛とした空気からは想像もつかない姿。
何時もは悪態ばかりがついて出る口も今は閉ざされ、穏やかに寝息をたてている。

それ故に部屋は余りに静かで。
下手をすると鼓動まで聴こえそうで。

とくん、とくん。

幻聴の様に聴こえるリズムは間違いなく自分のもの。
どうせ同じ構造なら、同調でもすれば面白いのに。
ただ背中に耳をつけてもあまりよく聴こえなかった。
それに同調したとしても。

「本当に同調して欲しいのは気持ちの方なんだけどなぁ……」

などと言う本音はきっと本人には聞き入れられない望み。
定番のお言葉、『この屑が』の一言で終わりだろう。
本音はともかく。
ただ朝起きたその時に、其処に無防備な姿を晒してくれているというだけで少しは満たされる。
だからルークは『幸せ』だった。
その幸せを噛み締めて、もう一度眠りにつく。
次に目覚めたときも君が其処に居て欲しい。
そう願って。
腕の中に君を閉じ込めたまま。

「すきだよ……アッシュ」


「……この屑が」

密着されているせいで感じてしまう相手の鼓動の音。
それ以上に響くのは、耳元で囁かれたルークの言葉だった。
散々頭の中をかけめぐり、結局出てきた言葉は何時もの台詞。
その精一杯の照れ隠しすら、ルークの思うツボであった事を彼は、知らない。

 

 

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さて何故朝二人がこのような状態でいらっしゃるのかはご想像におまかせします。
愛の疎通ができてんだかできてないんだか。
ちょっと甘すぎたかも。
有難う御座いました(2006/03/13)