DOLLs

 


人を殺して何も感じない人形よりも。
人を殺して罪悪感を感じる人間であればいい。

――俺は『人間』だ。

部屋に入ると先客――ジェイドがいた。
先客も何も、同じ部屋なのだから居て当然なのだが。
てっきり出かけていると思っていた。
外からは灯りも消えているように見えたから。

「ノックもしないとは、不躾ですねぇ」

のんびりとした声が、暗闇から聞こえる。
暗闇であっても、だがぼんやりとその輪郭を捉える事が出来た。

「だって、居るなんて思わねぇじゃん。……電気つけるよ」

「あ、ちょっと」

ルークは馬鹿にされた事で少し不貞腐れる。
相手の返事も聞かずにぱちん、とそのスイッチを入れてしまった。
静止の声も別段、焦っているようにも思えなかった。
驚くほど白い光に一瞬覆われた視界。
だんだんとその明るさに眼が慣れて行く。
まず視界に入ったものは、そこに居た人間というよりその人間の左肩に浮かび上がった、赤黒い痣だった。
男のくせに、軍人のくせに、不気味なまでに白い肌にその痣は、あまりにも不自然すぎた。

「……それ、いたい、か?」

「別に貴方が気にする程大したものではありませんよ」

その痣を白い包帯が覆っていく。
右手と歯を使って器用に、それで居て丁寧。

「俺のせいだ」

「自意識過剰も程々にお願いしますよ。あれはただの私のミスです」

その痣の原因にルークには確証があった。
昼間、盗賊の襲撃を食らった時。
それでも人を斬る事に慣れないルークが攻撃を躊躇った瞬間。
そして自分の真下で譜術が発動した事に気付けなかった。
到底『そんな行動』を起こしそうにない人間がルークを庇った。
まともには食らわなかったようだが、幾分かのダメージはあった筈。
なのに顔にも空気にも、苦痛をにじませる事はなかった。

「俺が躊躇うからだ。何時だって俺のせいで誰かが傷つく」

今はもう白で覆われたその酷い痕を凝視して。
吐き出した言葉、声が震えている。

「俺が人を斬れないからいけないんだ」

「それは少し違いますね」

大人一人分の体重を受けて、ぎしり、と安宿のベッドが軋む。

「人を殺す事がそんなに偉い事だと思ってるんですか?」

飄々と、淡々と告げられる言葉に、ルークははっとした。

「人を殺す事に対して何も感じなくなったら、人間として御終いです」

それは。
その言葉は。
――あんたが言うにはあまりに自嘲じみている。
ルークは何か言おうとして、しかし告げるべき言葉が浮かばなかった。

「最も、私なんかが言えた台詞じゃあありませんでしたね」

人を殺して何も感じない人形よりも。
人を殺して罪悪感を感じる人間であればいい。

読めない男はくつくつと笑った。

「貴方は私なんかより、よっぽど人間ですよ。だからそのままでいいんです」

ルークは溜息とともに、心に積もった靄々としたものが吐き出されるのを感じた。
レプリカ『ドール』はそれでも、人間としての生にしがみついて生きている。

――俺は、人間だ。

「うん……有難う」

 

 

a

やばい、起承転結の承転結が滅茶苦茶だ。
とりあえず大佐がこんなに甘い筈ヌェーとか思いながら書きました(´∀`)
ていうか大佐はもっとスマートに助けてくれる筈、なんて夢見がち。
有難う御座いました(2006/02/22)