君ヲ想フ
注意:ローレライ解放後です。彼が降ってきます。嫌な予感がした人は引き返しましょう。
崩れていく造り物の大地。
そして同じように。
造り物である、『ルーク』もまた。
消え逝く運命。
譜陣の上で自分の躰の音素が乖離していくのを感じる。
――今度こそ、死ぬのか。
いざとなると心が揺らぐ。
仲間達と分かれる直前。
此処で揺らぎを見せてはいけないという使命感の下。
しっかりと立っていたルークではあったが。
一人になり、それぞれの言葉を噛み締めた時。
怖くはなかった。
ただ。
――アッシュ。
皆、自分に帰ってこい、と言って見送ってくれた。
最期かもしれないと知っていながら。
それでも。
なのにアッシュは。
もう一人の自分は。
たった独りで逝ってしまったのかと、思うと。
ルークは俯いた。
彼の一番最期の居場所まで奪い取った自分を嘆いた。
名前も家族も居場所も家も、その存在すら。
ただの造り物である『ルーク』が。
本来ならば……。
完全なオリジナルであるアッシュが今此処に居るべきだったのに。
そしてアッシュは無事に帰ってそして。
やっと光のある場所で、もう一度生きていけると思っていた。
ルークが消える事で、何もなかったかのように、アッシュは『ルーク』として生きる事ができると。
ルークは、信じていたのに。
ふと。
上から来る気配を察して、頭上を仰ぐ。
鮮血が。
落ちてくる。
ルークは目を見開き、両手を伸ばした。
そして迷う事なく、ゆっくりと落下してきたその躰を抱く。
乱れて散った前髪が額に落ちている。
白さを通り越して青ざめた肌の色が赤によってより目立つ。
そうして否が応でも分かってしまう、躰の温度。
数時間前。
自分と剣を合わせ闘った相手とは思えない。
アッシュは、こんな、無防備な姿を俺には、晒さない。
――死んでしまったんだ。
こんな穏やかな顔のアッシュを見た事なんてなかった。
ルークに逢う度眉間に皺を寄せて。
口からは悪態しか出てこなくて。
少し暴力的で怒りっぽくて。
なのに。
――なんでそんな、満足そうな顔してんだよ……。
自分に全部託してくれて。
そんな、安心しきった緩みきった穏やかな表情で。
全部全部託してくれたのかと思うと。
ルークは、冷たいその躰を力いっぱいに抱き締めた。
何時の間にか涙が溢れていたが気にならなかった。
『泣いてんじゃねぇよ屑』
『俺と同じ顔してる癖に』
『この出来損ないのレプリカが』
そう叱り付ける声は、ない。
だからルークは、精一杯泣いた。
ごめん。
ごめんアッシュ。
もうお前にしてやれる事がこれしかない。
泣きたくても泣けなかったお前の為に。
『ルーク』として生きてきた俺が。
本物の『ルーク』の為に。
俺に残された時間全部使って、お前の事を想って泣くよ。
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