『記憶』

 


お前は知っている筈だ。
彼はもう『記憶』になってしまったのだ。
お前の元にはもう戻らない。
『記憶』は待てども帰らない。

あの怒った顔も。
あの泣いた顔も。
あの笑った顔も。

全て『記憶』になってしまったのだ。

あの鮮やかな炎の色。
あの穏やかな体温。
あの純粋な双眸。

全て、『記憶』になってしまったのだ。

お前はあの時『待っている』と言った。
だけど知っている筈だ。
あの後彼は『記憶』になってしまう事を。
知っている筈だ。
あれがさいごだと言う事を。

『記憶』は待てども、戻らない。
1年が過ぎ2年が過ぎても。
彼は、戻らなかった。

だけど今も。

あの鮮やかな炎の色が、群集の中でちらついて。
手を伸ばせども届かない。
まるで自分を嘲笑うかのように。
それはまるで炎のように、揺らめきふわりと空へ消えてしまうのだ。
そんな時、どうしようもない苦しさが胸を締める。
そして思い知らされる。

彼は『記憶』になってしまったのだと。
そして思い知らされる。

彼が自分にとってどれ程、重要な存在だったのかを。


『ジェイド』

『記憶』になっても尚、彼は自分に笑いかける。
手を伸ばせば消えてしまう、其れは幻。
所詮『記憶』の産物、そうと知っていても。

『ルーク、私は……』


眠っていたらしい。
自室の、書類の散乱したデスクに突っ伏して。
窓の前に立つ。
朝陽が。
のぼる瞬間。
鮮烈な『あか』が世界を支配する。

嗚呼今日は。

「……貴方の、誕生日でしたね」

故郷では祝典が行われるのだったか。
その場に居ない『記憶』の少年の。

きっと『彼等』は出席しないのだろう。
そして『あの場所』へ行くのだろう。
ならば自分も向かおうか。
『彼等』は彼を待っている。

否。

彼はもう『記憶』なのだと知りながら。
願っているのだ、自分もまた。

自分は。
彼に逢いたくて遇いたくて会いたくてあいたくて。
自分もまた、待っているのだ。

記憶の中で笑う少年を。
今度こそ此の腕で、抱き締める為に。

 

 

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ほらエイプリルフールだからこんな甘々ジェイルクだって書けちゃう!(何)
どうせならそういうネタ書けってカンジですか。
大佐はあれだ、理性と本性の狭間でぐっちゃぐちゃになってればいいよ(何)
有難う御座いました(2006/04/01)