軋んだこころ

 


夢の中で、其処には鏡があった。
何もない真っ暗な闇の中で、向こうと此方が一枚の硝子で隔てられている。
向こうと此方は、似て非なる世界。
俺は、此方に居る。

鏡の中の、向こうの世界の俺は、硝子を必死で殴っていた。
何か言葉を必死に叫びながら。
対して俺はそれに言い返す事も出来ず、動く事も出来ない。
嗚呼、糞。
どうして言う事を聞きやがらない、この躰。
向こう側の俺は何度も何度も硝子を叩き、何かを訴えている。
しかし良く見ればそれは、俺ではなくて。

嗚呼、糞。

どうやら此方へ来ようとしているのか。
見ていれば、硝子を叩くというより破壊しようとしているのが分かる。

――駄目だ。
何が駄目なものか。
言いたい事があるなら此処まで来て言え。
――此方に来てはいけない。
――今俺の居る世界は。

来るな。

その一言が言えない。
俺の躰は、口すら自由に動かせない。
半ば強制的に動いている視覚以外。

嗚呼、糞。
何一つ思い通りになりゃしねぇ。

遂に鏡の向こうの俺が、剣を抜いた。
叩き割るつもりなのだろうが。
やめろ、戻れなくなるぞ。
俺は何とかしてそいつを止めたくて。
思い通りにならない躰を無理矢理動かそうとして。

軋ッ――。

そこで漸く、俺の躰を縫い止める三本の剣を視界に捉えた。

きしっ――。

前を見る。
鏡の向こうの俺は。
――どうしても割る事が出来なかったのだろう。
硝子の前で蹲って泣いていた。

嗚呼、糞。

あの子供を宥める術が見つからない。
もう全ては手遅れだ。
俺達の間には、絶対的な壁がひとつ。
その向こうであの子供は泣いている。
俺はもう、あの子供を宥める事も叱咤する事も出来ない。
軋んでいるのは貫かれた躰ではない。

絶対的な手遅れを知った、俺のこころだ。

 

 

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死ネタですんません。
死んではじめて自分の心に気付いたアッス。
実は向こうで泣いているのはルークと思わせておいて、アッスのココロだったりして。
そのへんはまぁ、色々ね。有難う御座いました(2005/03/22)