LOVE
is here...
注意:両想いなのに、痛いすれ違い15禁。但し直接表現はナシ。
アッシュはただ、苛つくばかりだった。
何度力で捻じ伏せてその躰を組み敷いたとしても。
屈服しない碧の双眸、相手に対する絶望も失望も恐怖もない。
アッシュは思う。
もっと苦しみ喘ぎ呻いて、屈辱に啼いて泣けばいい。
自分と同じモノでありながら、自分より遥かに劣った相手。
憎いこの男がそんな姿を自分の前に晒してしまえば、自分は一時の優越感に浸れるのに。
毎回、自分の行った行為に対して罪悪感は抱かなかった。
ただ苛々がつのるばかりだった。
腹癒せのつもりが、逆にストレスを増やしている。
ただ、苛つくばかりだった。
確かにルークは。
何度経験を積み重ねたとしても苦しみ喘ぎ呻いて、啼いて泣いた。
だがそれはアッシュの求めているそれとはかけ離れたもので。
最中何度かかち合う視線、歪んだ瞳にうつった色は絶望でも憎悪でもなく、哀情。
その瞳を見るたび、アッシュの苛立ちは最高潮を迎える。
ただそれはアッシュがそう思いこんでいるだけであって、苛立ちとは少し違う感情が混ざっている事に本人は気付いてない。
――そんな眼で俺を見るんじゃねぇ……。
今日も今日とて同じだった。
荒くなっていた息が段々と落ち着いてきて。
やがて室内に沈黙が降りる頃。
アッシュは何時も思う、意識があるなら恨み言の一つでも言えばいいのにと。
思惑通りにルークは動いてくれない。
あらゆる体液で穢れた躰を自分で清めながら、ルークは何時も一言だけ呟くのだ。
――ごめんな。
何故、謝るのだろう。
謝るのは此方の方だという事は常識という知識で解っている。
だが、言ってしまえば自分という全てが崩れそうな気がして。
認めたくなかった。
悪いのは自分だなんて。
だから黙っていた。
黙ってそのまま、部屋を後にしていた。
だが今日は、限界だった。
「お前は……悔しくないのか!」
「……アッシュ?」
両肩を掴まれ、力任せにベッドへと沈まされる。
衝撃はなかったが、今の躰には負担がかかった。
「こんな屈辱を受けて何故甘んじている! どうしてお前はっ……」
ああ、またこの眼だ。
哀れみという情に歪んだ双眸。
「拒もうと思えば、拒めるよ」
「じゃあなぜ……」
ルークは笑った。
何時ものような、馬鹿みたいな屈託のないそれとは違う。
やさしさと、はかなさを持った哀情の。
ゆっくりとルークの両手が伸びて、指先がアッシュの頬に触れた。
「例えお前にとって俺の価値が性欲処理程度のものでも、お前がどんなに俺の事を嫌いでも」
温かな掌に頬が包まれる感覚。
アッシュの心で何かがざわついた。
「……俺がお前を好きだから、俺はずっと耐えられるよ」
アッシュの双眸がその言葉に反応して見開かれ。
自分を捕らえた両腕を振り払い、よろめきながら後退する。
小さく開いた口からは、不明瞭な呻きだけが零れて。
壁に背がついた時、躰が崩れ落ちた。
まるで怯えるように遠ざかったアッシュの目の前に、ルークはしゃがみこむ。
「泣きたいのはこっちだっつーの」
苦笑しながら差し出された左手にまで怯える。
お構い無しにルークは指先でアッシュの頬に触れた。
アッシュはきつく眼を閉じ、躰を強張らせ。
だが頬の少し上を指が滑る感覚に、薄っすらと瞼を上げる。
目の前にある、ルークの指先は何かで濡れていた。
漸く気付く、自分が泣いているという事に。
「こんな事、言える資格はないけど……俺はアッシュが好きだから、おアッシュが俺にどんな酷い事をしても耐えられる。だから俺がお前を好きな以上、俺はお前に屈する事はないし、お前が思っているようにはならないよ」
――全部見透かされていたというのか。
ゆっくりと立ち上がって、自分を見下ろす姿を見て。
自分より劣ったと思っていた其れの姿を見て。
気付いた、漸く気付いた。
この苛立ちは。
この涙は。
――俺はもう、憎む事でしかお前を愛せないのか。
互いを愛しているのに、擦れ違ってしまう不器用さだ。
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