失楽園-Ver Lloyd-

 

――そばにいない 過去になった鳥はもう捕まえられない


淡い紫の光は再び、両腰に下げた二本の魔剣へと吸い込まれた。
空は憎い程澄み渡り、そして『彼』はこの空の向こう側へと行ってしまった。
あまりにも高い空は、もう二度と届かぬ彼との距離を突きつけてくる。
魔剣の所有者――ロイドはその現実から目を離し、下を向いた。
もう誰も居なくなった森の奥深く。
もう誰も見てはいない。
だからロイドは躊躇いなく、涙を流した。

文字通り空に溶けた想い人。


短すぎた。
彼と居た期間は。
そして彼が――クラトスという男が。
自分の父親だと知ってからの期間はもっと短かった。
話したいことも聞きたいことも。
短すぎる一日ではとても、尽きる事なんてないだろう。
もっと傍に居て、欲しかった。
それはやっと逢えた、『自分』を知る実の親に焦がれる気持ちを遥かに上回る。
まるで淡い初恋の如く。

――君がいない夜を越えてやがて辿り着いたEDENは

統合された二つの地。
夢に見た、仲間達と目指した楽園。
あるべき姿に戻った大地、皆喜んでくれた。
皆の笑顔が見れて、幸せな筈だった。
なのにどうして。

涙が、止まらない?


――……なぜか悲しくて


すかした態度に苛ついた。
裏切られて悔しかった。
助けられて嬉しかった。
傷つけることが悲しかった。
彼が死ぬと思うと、苦しかった。


――季節は流れるのに心だけ立ちどまってる


これからロイドは、一人で旅に出る。
空の向こうへ消えた男との約束を果たす為に。
ただ振り返ってしまう。
構えが悪いと、隙が出来ていると、後ろからあの低い声で諌められるのではと。
時々の夜に話してくれた、星の話の続きをまたあの宿に泊まれば聞かせてくれるのではと。
『父さん』と呼べば、少し辛そうに。
少し照れくさそうに笑うあの男が。
いつでも自分を後ろから支えてくれていたから――。

ロイドは涙を拭い、嘆息する。
振り返っても、見えるのは広がる青い空だけ。
それでも、とロイドは思う。
この空の向こうの星から、ずっと彼は自分を見ているのだろうと。
そう思う事で、空を振り返るのは止めにした。


――もう今さら空に溶けた 君をさがしてみても

 

 

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微妙にロイ→クラかもしれない。
デ リス・カーラーンに送った後って事で。
歌詞引用はJanne Da ArcのEDEN〜君がいない〜より。
腐った頭してますが、ファンですよ。有難う御座いました(2005/04/13)